まだ日が高く、人通りの激しい大通りに面した、派手な看板のかかった店の前に彼らはいた。
 大剣を背中に背負った青髪の青年、銀緑という得意な色の長髪をもつ女剣士、黒髪をお団子にした異国の少女、金とも銀とも形容し難い長髪のエルフのパーティである。一見して冒険者と分かる彼らが入ろうとしている店が、冒険者向けの店であることもそれを確信に変える。
「いらっしゃいませー!」
 両開きの扉を開けると、威勢の良い声と酒と食べ物の匂いが、彼らを向かえた。
 店に入ると、一般的な食堂よりも広く、丸テーブルが多いのが特徴的であるといえる。天井には古ぼけたシャンデリアがあり、店の隅には埃のかぶった舞台があった。二階はどうやら宿屋になっているらしく、シーツをもった茶髪の店員が忙しく立ち回っている。
「何名様ですか?」
 足元がおぼつか無げな愛らしいウェイトレスの制服を来た老婆が対応する。腰が曲がっていながら何故働いているのか、エルフは突っ込みたかったようだが、こらえた。
「……4人」
 青髪の青年が答えると、ウェイトレスの老婆は明るく(声はしわがれていたが)繰り返し、店の中へ案内した。
 端の方の席は殆ど埋まっているらしく、彼らは店の真中の方の席へ案内された。四方八方から笑い声や酒の臭いが漂う。老婆はメニューを置いていくと、別の客の注文を受けるために立ち去った。
「とりあえず、お酒」
「……財政きついんですけど」
 女剣士の当然のような注文に、少女は異を唱える。どうやら冒険者によくある金欠病らしい。
「けちな事言わないでよ、ユンメイ」
 甘えるようにしなを作る女剣士に、雲美(ユンメイ)と呼ばれた少女は遠慮がちにではあるが頑なに拒否する。しばらく二人は問答を繰り返すが、
「エマは飲み出したら、キリが無いじゃないですか。駄目なものは駄目です」
 と雲美が断言して、話をそらすように連れの二人へ視線を向けた。青髪の青年が、カウンターの方へいこうとしていたのを呼び止める。
「クリスさん、依頼をもらいに行くなら、注文もついでにしてもらっていいですか?」
「……分かった」
 クリスは応じると、注文を聞く。メニューと睨めっこしていたエルフの少年は決まったらしく注文する。
「フルーツ盛り合わせ」
「お酒」
「だから駄目ですってば」
 私はAランチで、と雲美が言うのを聞いて、クリスはカウンターの方へ行く。
 カウンター席はぽつぽつと埋まっていた。その向こうに豊かなひげを蓄えた壮年の男が料理を作っている。見事な鍋捌きで炒め物を仕上げていた。
「……注文…」
「ああ、一寸待っててくれ」
 皿に炒め物を盛り、手短に居たあの老婆を呼び運ばせると、手を軽く洗ってクリスの前に立った。
「仕事の斡旋か?」
「……あと、注文」
 店主はクリスにパーティの強さや特徴を聞きだす。いくつか質問すると、カウンターの隅のほうへ行き、何かを探している様だった。
「……おかしいな、丁度良さそうな依頼があったはずなんだが……」
 呟いて、思い出したように二階でせわしく働くウェイトレスへ声を張り上げた。
「アーム! 下りてこーい! 早く来ないと減棒にするぞ!!」
「はーい、今行きマース!!」
 明るい声が返ってきて、暫くすると急いで階段を駆け下りてくるが、何度かコケかける。客や他の店員達がそれをわらった。
「何ですか?」
「お前、ココから依頼書パクッたろ」
「え、パクるなんて人聞きが悪い……キープしてただけですよ」
 言いながらアムと呼ばれた店員はスカートから一枚の紙を出し、店主へ渡す。軽く目を通して、店主はクリスへそれを回した。
「ああ! 酷い! 職権乱用だ!!」
 悲痛な声をあげて抗議する店員を、店主は軽くチョップした。
「お前のレベルじゃ、目的地につく前に逝っちまうぞ。パーティを組んでから持っていけ」
「うぃーーーーーーーーす」
 頭をさすりながら不満な声をあげる。依頼書を片手に困った様子でクリスは立っていた。
「ああ、そうか注文か」
 忘れていたように店主は注文を取る。その姿を暫く店員は見ていたが、何かを思い立ったらしく二人の方へ歩み寄っていった。
「……?」
「なんだ、お前のレベルの依頼は無いぞ」
 店主の言葉に一切気を寄せず、店員はクリスの手を取った。童顔なわりに頭一つ高い顔を見つめる。
「…何?」
「私とパーティ組んでください!!」



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