「…何?」
「パーティを組んでくださいv」

 にこやかに、実ににこやかに言ってのける少女を頭から爪先まで流し見て、クリスタルは彼女に背を向けた。

「無理だ…」
「大丈夫ですって! 私こう見えても強いんですからー!」
「……………」

 疑わしげな視線を送るものの、彼の性格的にここで無下に振り切ることも出来そうにない。しばらく無言で考えた後、

 ヒュッ

 風を切る音がしたかと思うと、少女の立っていた空間を薄蒼い刀身の剣が裂いていた。
 そして、髪の一房も散らすことなく、それを避ける少女。それなりに混乱はしているようだが、その身のこなしや対応は大したものである。

「…なっ」

 床ギリギリの位置で、抜き身の剣が涼やかな光を湛えている。
 少女は跳ねる心臓を押さえつつ、パチパチと目を瞬かせて言った。

「いきなり何するんですかぁ!?」
「良いぞ…パーティ、組んでも。」
「……………へ?」


*   *   *


「というわけで。アムリエル=シーアですっ、今日からヨロシクお願いしまーすv」
「………だそうだ。」

 唖然として口の聞けない一同を前に、愛嬌いっぱいの笑顔を振りまく、アムリエルと名乗る少女。
そして当然のように彼女を連れてきて、新メンバーだと一言告げただけの青年。
突然のことに驚いてというよりも呆れ果てて、どうリアクションすべきかも判らない。
微妙な雰囲気の中、数分間の沈黙が訪れる。その後、

『はぁ!!?』

 我に返った面々から、異論の合唱が発せられた。

「何言ってる、コイツはここの従業員だろ!?」
「まあ、華が増えるのは賛成だけどねぇ…」
「そうじゃなくて!財政厳しいんですって、さっき言ったばっかりじゃないですか!?」

 約一名ズレた発言をしている人間がいるが、エルフの少年――名をルゥクと言う――と雲美から浴びせられる非難の嵐に、クリスタルは思わず耳を塞いだ。

「金は、仕事の数を増やせばなんとかなる…人数が増えれば、大きなヤマにも手が出せるし…」
「アホか!増える人間にも依るだろうが!」
「大丈夫だ…足手まといには、ならない。」

 とは言え、青年とて彼女の実力の全てを把握したわけではない。
 端的にその一部を測っただけであるから、その発言の最後に『と思う』が省略されていることをここで予測しなければならないのだが。
 ルゥクと雲美の二人はちらりとアムリエルに視線をやり、また逸らして、深い溜息をついた。

(どっからどう見ても只のウェイトレスだ…戦力なんかになるわけがない!)
(今月もまた…赤字だわ…)

 そんな二人の心境を知ってか知らずか、アムリエルは最上級の接客スマイルを以って、

「それじゃ私、支度してきますので!」

と元気いっぱいに言い残し、姿を消した。

「……………………」

 常識派二人は顔を見合わせ、ぎこちない動作でゆっくりと後ろを振り向いた。

『クリス―――――――!!!♯』
「賑やかになりそうだな…」

 お構いなしに、クリスタルは運ばれてきた料理に手をつけている。
更にはエマも、勝手に注文した酒を既に一瓶空けてしまっている。
 もしかしたらアムリエルがこのパーティに加わる加わらない以前に、こちらがこの店の皿洗いに加わらなければならないのでは。 ドス黒い予感が過る、それは夏の日のことであった。



前へ 小説 次へ 始発点