「………何?」
 熱視線に軽く眉を顰めながらアムリエルはルゥクをみやると、素っ気無く流される。納得いかない顔ながらも再び外へ意識を向けた。茂みが揺れている。
 すかさずアシュレーが軽口を挟みこみ、不機嫌にルゥクが怒鳴り返そうとしたところで、馬車が揺れる。
「モンスターだ!」
 御者の叫びに似た言葉に、四人は得物へ手を伸ばした。
 うち、クリスタル、雲美、エマは御者の元へ向かい、ルゥクは新たに茂みから出てくる者を待つ。
 現れたのは、背の低い老人に似たゴブリンばかり数匹。鉄扇でなぎ払う雲美や何時だかアムリエルへ向けられた大剣を振るうクリスタルは御者へ被害が及ばないようにしているが、エマは酷く退屈そうに片刃の剣で切り刻んでいく。
 弓の飛ぶこ気味良い音。同時に醜い悲鳴。
 何かする事は無いかと杖を握りながら出てきたアムリエルの前に、ゴブリンの首が飛んできた。迸る血が軽くかかる。
 ぬるり。
 重たい液体の感触が不意に今繰り広げられている戦闘から意識を遠のける。振り解こうと意識を向けるが、叶わなかった。
 その間も圧倒的な戦いは進んでいく。そもそも数が少なかったからか、それとも彼らの実力か。
 ものの数分ばかりの後には、彼らの乗る馬車を遮る者は息をしていなかった。
「追いはぎにしてはお粗末ねぇ」
 剣の汚れを早く取りたいとでも言うような調子のエマに雲美は軽く叱咤する。弱い敵で良かったではないかと。
「……大丈夫か?」
 その二人とは別にクリスタルは道脇にうずくまるアムリエルへ尋ねる。朝に詰め込んだものが吐捨物となっていた。
「ン……ごめん、大丈夫」
 布キレで口元を拭い、何度か深呼吸する。
「一寸馬車に酔っただけだから。あー。ゲロするときって何で涙も出るのかしら」
 明るくお道化た指先が震えている。
――気色悪い
「どうしたんですか? 早くしないと野宿になりますよ」
 馬車に乗り込みながら声をかける雲美に明るい声を返した。



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