「で、これからどうしますか?」
 クリスと雲美が宿を探し出してきてから約1時間後。
 夕食を終えた一行はクリス・ルゥク・アシュレーの三人にあてがわれた大部屋で話し合っていた。
 仕事がある時にはほぼ恒例となっている会議だ。
「とりあえず…今日はもう休むことにして……明日村長に会って話を」
 雲美の問いかけにクリスが思案顔で答える。
 その言葉に雲美は「まぁそんなところでしょうね」とうなずいた。
 エマが口を開く。
「明日詳しい話を聞いて、装備を整えて明後日あたりに出発。
 亀退治に余裕を持って三日は考えておいて…報告に1日。なんだ、簡単な仕事っぽくない?」
「標的がでかいからな。探す手間がなくていい」
 ルゥクがエマの言葉に同意して、「相手が人間の場合は一ヶ月以上かかる時もある」と皮肉に笑った。
 こういったことの素人であるアムリエルとアシュレーは「はぁ」だの「ふん」だの言いながら話を聞いていたが、今の会話の流れを読み取ったらしいアシュレーが
「じゃあ、今日はもう特に話し合うことも無しかい?」
 と口をはさむ。
 視線をクリスによこすと彼は
「ああ…明日に備えて早く寝た方がいい…」
 とすでに眠たげに見える瞳で答えた。
 やった、とエマの黄色い声があがる。
「では、解散」
 そう言った雲美の声で、その日の会議は終了となった。

* * *

遠くで潮騒が聞こえる。
 どうやら以前にルゥクが語った知識は間違ってはいなかったらしい、と、そんなどうでもいいことを考えながら
 アムリエルは夜空を見上げていた。
 昼間の戦闘の光景が嫌でもよみがえる。
 クリスたちについて行くと決めた時からこうなることは覚悟していたはずだった。
 自分は戦いの中で生きなくてはいけないと。  覚悟は、していたつもりでいたのに……。
「やっぱり、慣れないな…」
 フラッシュバックする記憶
 むせ返るような血の臭い
 どこまでも紅い視界
 あたりに倒れ付した人影
 血にまみれた手が握るのは、金の……
「アムリエル?」
「!」
 不意にかかった声にどきりとして振り返る。
 と、風呂上りらしい雲美がすぐ背後に立っていた。
「あ、ああ…ユンメイ……」
「ごめんなさい、何か考え事をしていたようだったから」
 月と星が放つぼんやりとした光の中で、困ったように雲美が笑う。
 思わず視線をそらしてしまってから、自分が酷く挙動不審だと言う事に気がついた。
「あの…エマは?」
 無理矢理明るい声をだしてアムリエルが聞く。
 その様子に雲美は再び苦笑すると
「エマはまだお風呂。…貴方は入らなくて良いの?」
 と逆に聞き返した。
 実際、先程血しぶきを浴びたアムリエルは簡易的に体を拭きはしたもののところどころにその名残がある。
 風呂できちんと洗い落とさなければ、いつまでも残る汚れだろう。
「あー…」
 アムリエルはしばらく考える。
「私、ちょっと気分が悪くて……後で一人ではいることにするわ」
 その答えに雲美は「そう?」と首をかしげる。
 しばしの沈黙が落ちた。

「…………アムリエル?」
「うん?」
「無理しなくて、いいのよ……」
「…………………うん」

 明日から、また頑張ろう。
 何とはなしにそう思えた。



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