「ふんふんふ〜ん♪」
 などと鼻歌をうたいながら、支度を終えたアムリエルは足どりも軽く階下へおりていった。今ごろ、彼女の仲間となった者たちも食事を終え待っていることだろう。
「とうっ」
 最後の三段を飛び越え、出口までいそぐ。出口付近に設置してあるレジの前に件の四人組の姿を認め、声をかけようとし…やめた。異様に空気が重い。
「……足りないわ…」
 不意に、黒髪の少女が口を開いた。アムリエルは彼女のセリフに不安を覚えて口もとをひきつらせる。
「エマ…お前、どうするつもりだ…?」
「そおねえ…」
 怒気を含んだエルフの少年の言葉に、緑の髪の女はさして困ってもない風に口もとに指を当てて首をひねる。
 どうやら彼女の頼んだ酒のおかげで、予算をかなりオーバーしてしまったようだ。
 アムリエルが彼らの使用していたテーブルに視線を走らせると、酒ビンが大小あわせて六本転がっているのがわかった。

――あの美女の胃の中に、短時間であの量の酒が入っていったのか…

 そう考えて、目の前が真っ暗になる。(彼女以上に少女やエルフの方が真っ暗だろうが)
「ねぇ…あなた?」
「…?」
 気を取り直して自分と一番初めに会った青年に話しかけると、一人だけ表情を変えていなかったその青年は、やはり無表情に振り返った。
「今、どんな状況なわけ?」
 訊くと、
「食費が…足らなくなって、困ってる…」
 と、答えが返ってきた。
 なんだか泣きたい気分になって、アムリエルは溜息をつく。
 店長に「どうするの?」とたずねると、彼は「皿洗いでもやってもらうしかないな」とうなった。
「いや、ちょっと待て」
 アムリエルと店長の会話を聞いて、エルフの少年が声を上げる。
「僕たちが皿洗いをするのはかまわないが…その間、雲美――そこの少女だが―――に、出かせぎに行ってもらっても良いだろうか? その方がてっとりばやい。」
 そのセリフに店長が、まあいいだろうと許可を出した。
「ただし、何人かはここで残ってもらうぞ。食い逃げされたらたまらないからな。」

*   *   *

 人気の多い大通りを、アムリエルは女性二人と一緒に歩いていた。あれから話し合い、雑技が得意だという雲美、元凶であるエマが出かせぎへ行き、何もすることが無い男二人が店へ残る事になったのだ。
「自己紹介もまだだったなんで、笑っちゃうわよね」
 雲美が言って笑う。確かに先ほどは自分が一方的に名をなのり、相手の事を何も聴かなかったのだ。 実際、この二人のなのりあったのだってたった今のことだし、男二人の事は何も知らない。
「後でクリスちゃんとルゥちゃんの事も紹介するわね」
 エマが無駄に色っぽい口調で言う。

 大通りではやはり見世物などをする者は多いらしく、そこかしらで人だまりができていたり、人が多いのをいい事にスリなどを働く輩もいた。
もちろんナンパをしてくる男もいるわけで、三人も何度かそういった被害にあったりもした。
(その中に懐からバラを無限に出す、ナルシストのような不思議な男がいたのがやけに記憶に残っていた。)
 やっとのことで広場に行きつくと、荷物をおろした雲美が言った。
「じゃ、はじめようか」



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