芸を始めてからまだ数分しか経っていないのに、雲美の周りはすでに人で埋め尽くされている。
 人々は次々と繰り出される華麗な技に息を飲み、またそのひとつひとつが決まる度、大きな賞賛の声を挙げた。

 雲美による雑伎が成功を納めている一方、エマとアムリエルは……。
「オジ様ぁ、もうちょっと弾んでくれてもいいんじゃなぁい?」
「こんなにいいの? …有り難う!!」
 エマは妖艶な色気、アムリエルは可愛らしい笑顔を振り撒いて観客からお金を頂いていた。
 この分なら食事代くらい難無く稼げそうだとホッと一安心していると、

 シュッ!!
 
 突然、風を裂くような音がし、何かがアムリエルに向かって一直線に飛んで来た。
 花…の様だが、危険なのでとりあえず避けてみる。
 アムリエルを通り過ぎ、地面に落ちる真っ赤な薔薇。
 何事かと辺りを見回すと、一人の青年がニッコリと微笑んでいる。そして、笑みを浮かべたままこちらへ向かってくる。
「やぁ、驚かせてしまったようだね。ちょっとした挨拶代わりに、と思ったんだけれど…。」
 いきなり話し掛けてくる青年。どうやら、先程の薔薇はこいつの仕業らしい…。
 文句の一つも言ってやろうと思ったところにエマがやって来た。
「かなり集まったわよv そっちはどう? …ってあれ?」
 声を掛けると同時に見慣れない青年の姿に気づく。
「この人だぁれ?」
 アムリエルに尋ねたつもりだったのだが、彼女が答えるより先に彼が口を開く。
「初めまして♪ 僕の名前はアシュレー・カルヴァン。好きなように呼んでね!! 出身は…」
 名前の後も延々と続く自己紹介に痺れを切らし、エマが話題を振る。
「ところで、二人は何の話をしてたの?」
「…特に何も。っていうか別に会話してたわけじゃないし。」
 アムリエルはワザと素っ気ない返事をし、カルヴァンを遠ざけようとしたのだが、
当の本人は全くお構いなしな様子でエマと会話を交わしている。
「あのさー、あそこで芸してるのって君達の友達?」
「ええ。」
「いつもこうやって稼いでるの?」
「いつもじゃないわ。今回はちょっと特別v 食事代が足りなくって…」
 自分が元凶ということで少し言いにくそうに告げるエマ。
「僕が出すよ! その食事代♪」
「「えっっ?」」
 カルヴァンは呆気に取られている二人を尻目に一気にまくしたてる。
「いいんだよ! 気にしなくて♪ 僕、見かけ通りお金は持っているから。
それにあの芸の素晴らしさには感動したし、そのお礼ってことで!!」



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