扉を開けると外はもう夜だというのに街の明かりと半分よりも少しかけた月の見事な光で十分に明るい。
「はやく! こっちこっち!!」
 元気よく呼ぶアムリエルについていくとそこには大きな丸テーブルと豪華な料理、そして大量の酒瓶があった。
「うふふv 全部アシュが買ってくれたのよぉvv」
 すでに数本の空き瓶を足元に転がしているエマが語尾にハートを飛ばしつつ隣に座っている男にしなだれかかって言った。
 男――新しく仲間になったアシュレーはそんなエマに顔をにやけさせながら残りの4人に向き合った。
「君たちも好きなだけ頼んでくれていいよ!」
 アシュレーの自信過剰なセリフにルゥクが青筋を立てる。
「〜〜〜誰がオマエの施しなんか……」
「別に君におごってやりたいわけじゃない。さあ!アムちゃんv雲美ちゃんv 早くこっちにおいでvv あぁ!! あいにく僕の隣はあと1つしか空いていないけど2人とも僕のために喧嘩をしちゃいけないよ!!! …そうだなぁ、じゃあアムちゃんは僕の右隣に、雲美ちゃんは僕の正面においでv うん、コレで楽しく会話ができる♪」
 不機嫌な声を出すルゥクを無視してアシュレーはてきぱきとアムリエルと雲美をエスコートする。
「なぁ!! ほんとにあんなやつ仲間にするのかよ!!! おいクリス!! 今からでも…」
 度重なるアシュレーの失礼な態度にたまった怒りをぶつけようとルゥクは勢いよく横を向いたが、隣にいるはずのクリスはいなかった。
「クリス…………」
 怒りに低くなった声でルゥクが呼ぶと黙々と食事をしていたクリスがゆっくりとふりかえる。
「…何をしているんだルゥク……料理が冷めるぞ」
「そうですよ。もう遅くなってしまったし、早く食事にしましょう?」
 延々と続くアシュレーの話を聞き流していた雲美が苦笑しつつ助け舟を出す。
 しかしルゥクの怒りは収まらなかった。
「大体こんなに遅くなったのだってあいつが原因だろ!!! 最初の店にそのまま宿をとっていたらこんなに遅くならなかったじゃないか!!!!」
 ルゥクの言うとおり今6人がいる宿は初めにアムリエルを拾った店ではなかった。
 なぜ宿を移すことになったかというと………時は数時間さかのぼる。

*   *   *

「お金なら僕が出すよ♪」

 見るからに軽そうな男のいかにもな軽い口調が突然。
 あまりにも不測の事態。
 雲美は男の隣にちらりと目を向けました。
 しかしアルリエルも戸惑ったような視線を返すだけ。
 エマは少し面白そうに口の端を上げるだけです。
 雲美は仕方なく気付かれないように小さく溜息をつき。
 改めて男を見ました。
 身長はかなり高く男と比べても高いエマよりも更に上。
 ふわふわとした少し長めの栗毛が典型的優男の風情。
 しかし良く見れば服の生地などは其れなりに上等そうだわ。
「其れで、お金を出して頂けると言うのは?」
 取り敢えず金を持っていそうだと判断した雲美は(何と言っても財政は厳しいのです)何だか一生懸命自己紹介をしていた男の話を遮って言いました。
「あぁ! 先刻2人から事情を聞いたんだよ! 君の芸にも感動したしね★ 大丈夫! 食事代も此れからの宿代も全部僕が払うよ!!」
 男は自信満々(死語)に胸を叩いて言いました。
「でも、其処までして頂く謂れはありません」
 何なの此の男都合が良過ぎるわ此処で無理な条件でも出してきたら打ち棄ててやる。
そっと鉄扇を握って殺気立った雲美に目の前の優男は明るく答えました。
「いいんだよ! 僕を仲間にしてくれれば★」

「えぇ〜、いいじゃないユン〜。仲間にしましょうよぉvv」
 仲間にするしないは此の男――アシュレー・カルヴァンを先程の店に連れて行ってから決めると言った雲美にエマは抗議しています。
 なんと言ってもいいカモだからネ★
 雲美はエマの無駄なフェロモン★ に当てられつつ断固として突っぱねます。
 此処で常識人の自分がしっかりしないといけない事は分っていますから。
 どうしようもないパーティーメンバーの中で自分の役割は弁えているのです。
「あぁ〜僕のために争うのはやめておくれ〜〜」

 一同は勘違い男を連れて。
アムリエルの元職場「りすとらんてばらてぃえ」に向かいました。

「いらっしゃいませー!」
 両開きの扉を開けると、威勢の良い声と酒と食べ物の匂いが、4人を向かえます。
 青髪と金髪を捜していると
「何名様デスカ?」
 よろよろと小さな塊が声をかけます。
 よく見ると初めて入った時にもいたウェイトレスの老婆です。
「連れが居るんですけど…」
 答えようとした雲美の声はしかし途中でしわがれた声に遮られました。
「オマエハ…カルヴァン家ノ……!!!」

彼女の名前はヨネ。  ウェイトレスは仮の姿而してその実態は!
 なんとアシュレーの父に命令された暗殺者だったのです!!

 実はアシュレーの家は超大きな資産家。
 医者の家系で育ったにも拘らずある日一族の秘密を知り家を飛び出してきたのでした。

(父)「医者の勉強をするんだアシュレー!!!!!」
(息子)「ウルセー!俺は絶対カルヴァンにはならねー!!!!」

 一族の秘密は追々。
 そんな訳で言う事を聞かない馬鹿息子に父は刺客を仕向けました。

(父)「どんな手段を使っても捕らえて連れ戻せ!」
(刺客)「………(殺セト言ウコトカ)」

 この刺客。刺客暦70年を超える超ベテラン。
 荒んだ心では任務の解釈も短縮されると言うもの。
 けして呆けていると言う訳ではないので。
あしからず。

 と言う訳で何たる偶然運命の出会い。
「此処デ会ッタガ100年目! 成敗シテクレル!!!」
「ウワァァァァァァァァァァァ!!!!!」

 盛り上がっている2人に何が起こっているかわからない周囲。
 しかし無視して食事をしている場合ではなかったのです! (クリス、エマ限定)

「オ前タチガマダ生マレテイナカッタ頃ハノォ、モット良イ世ノ中ダッタモノダ……」

 なんとヨネは「ばぁちゃんの昔話」を始めました。
 抑揚のないしわがれた声で延々と語られる説教はなんとも耐えがたく。
 其処此処で欠伸大量発生。
 耳を押さえる人。
 堪らず店を飛び出す人続出。
 エマは3秒で眠りの世界。
 他のメンバーは何とか持ち堪えていたものの限界を感じ。
 エマを抱えて店を脱出!
 後ろから聞こえる老婆の怒声を無視して一目散に逃げます。

「いったい何だったんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 黄昏時。
 賑わう街中。
 全力疾走で駆け抜けていく集団。
 呆然とする町の人々。
 砂煙の舞う中。
 突っ込みニストエルフの切ない叫びだけが響いておりました。



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