爽やかな陽気と小鳥の鳴き声。
硬く締め切った窓とカーテンに遮られながらも、それらは隙間を通して明かりを落とされた部屋に入り込んでいた。
「ん…朝……」
窓から漏れる光が直接顔にあたり、深い眠りから脱したルゥクは目を擦りつつのろのろと起き上がる。重たい目で隣りを見ると、2歩ほど離れた場所に設置してあるベッドに『くぷー、ぷすー』とよく分からない寝息を立てながらクリスが眠っていた。
「昨日…何があったんだっけ?」
妙にだるい体と重度の精神的な疲労を感じて未だ眠りから覚めない頭を振る。
髪をかきあげた拍子に何か硬いものに触れた。
「――髪飾り?」
そう、自分がいつもつけている髪飾りだ。
それがいつもの定位置より若干下がった位置で、他の髪ともつれあいながらぶら下がっている。よくよく確認してみると、今自分が纏っているものは宿に備え付けの寝巻きではなく、いつもの旅装束であることがわかる。
「………そうか!」
落ちていた思考能力が急激に浮上し、昨日の出来事が鮮明に思い出された。
アムリエル。
アシュレー。
昨夜の会話。
納得の行かない出来事が重なり合って、結局自分はふてくされて眠ってしまったのだ。
さらに言ってしまうと、今回の宿代はアシュレーが支払ったもので、エマ、雲美、アムリエル、アシュレーは宿で一番上等な個室を、ルゥクとクリスは一番下等な二人部屋を当てられたのだった。
そう考えると感謝すべきなのだろうが腹が立つ。
「僕は…僕は認めないからな! あんな奴らが仲間になるなんて…戦えない、弱い奴なんて足手まといなだけだ! なのに何で雲美もクリスも…くそ!!」
せめて一言文句をいってやろうかと絡まった髪もそのままに立ち上がり、部屋の扉に手をかける。(クリスは寝起きが悪いので起こさない、というか起こせないのが悔しい)
「ルゥ」
「え?」
扉を開きかけたのと同時に寝ているはずのクリスの声がルゥクを引きとめた。
声は、続ける。
「そっちは…危ないぞ」
「一体何のこと…」
扉を開き――
ぐわぁん!!!
盛大な金属音が脳髄に響き渡った。
「!!!!???!!?……ぐっが!?」
訳がわからずにただ頭部に多大なる衝撃と痛みを感じて頭を抑えてうずくまる。涙ぐんだ目を白黒させながら音の正体を探ると、ルゥクのすぐ真横に金ダライがワンワンと音を立てながら回転していた。
「――――っクリス!!」
怒鳴りながら全く間に合っていない忠告をした人物に駆け寄る。
「お前、忠告ならもっと早く…!!!」
「くぷー…すー…」
「え?」
眠っているらしい。
とすると、今の声は空耳か。もしくは寝言か。
ルゥクはしばらくの間、発するべき言葉が見つからずに絶句する。あたりにこだまするのは小鳥のさえずりと、ワンワン回るタライの音、それからかすかな笑い声。
「…笑い声?」
ルゥクが疑問を口にしたのと――
「くっ……へは、あははははは!!」
「や〜い、ひっかかったひっかかった〜〜!!!」
二つの声が部屋に飛び込んできたのはどちらが先だったろうか。
それだけで気の弱い人間なら殺せてしまいそうな凶悪な視線で声のした方向を振り返ると、そこには腹筋が痙攣するほどに笑い転げているアムリエルとアシュレーの姿があった。
「ひぃ〜、お、おかっし…い!」
「さ、最高…!!」
二人は口々に笑いあう。
――瞬間。
全身の血が。
周りのものにも聞こえるかと思えるほどの音を立てて。
頭に上っていった。
「お………」
震える息で何とか声を絞り出す。
「お、お、ま……」
「お前らあぁああぁぁあぁああぁああ!!!!」
* * *
部屋の外から確認できたのは、ガラスが盛大に砕け散る音と激しい風の音、飛び散った扉の破片だけだった。
「―――二人共、仲良くしようって言いたかっただけなのよ?」
その惨劇を遠い目で見つめながら、雲美が小さな溜息をついた。
